なぜ、武将の決断を「問い」にしたのか——個展「その決断を問う」に込めたもの

個展「その決断を問う」では、26人の戦国武将を題材に、それぞれの人生から一つの「問い」をつくりました。

なぜ、武将の功績や名言ではなく、「決断」をテーマにしたのか。

その背景には、歴史への関心だけでなく、私自身がこれまでに重ねてきた決断と失敗があります。

正解は、決断した瞬間には分からない

私は2021年に、侍タイポグラフィを展開するアパレルブランド「Yoshikuni」を立ち上げました。

自分が本当に表現したいものを形にし、世の中へ届けたい。その思いが強く、初期投資にも在庫にも、かなりの資金を投じました。

良いものをつくれば、きっと伝わる。

作品に力があれば、きっと売れる。

その考えに迷いはありませんでした。

しかし現実には、商品をつくることと、商品が売れることは別の問題でした。

販売先や販促の準備が十分でないまま、売れることを見込んで多くの在庫をつくりました。理想の実現を優先し、採算については後回しにしてしまった部分もあります。

結果として、売れない在庫と借金が残りました。

今振り返れば、もっと小さく始めることもできました。
販売先を確保してから商品を増やす方法もあったと思います。

それでも、決断した時点の自分には、それが最善に思えていました。

決断の正解は、選んだ瞬間には分かりません。

未来から振り返れば失敗に見える選択にも、そのときの自分なりの理由があります。
そして、選んだ以上は、その結果を自分で引き受けなければなりません。

ただし、一度の失敗ですべてが終わるわけでもありません。

在庫が残っても、借金を抱えても、その経験を踏まえて次の選択をすることはできます。私自身、販売方法や商品のあり方を見直しながら、少しずつYoshikuniの活動を続けてきました。

その経験が、今回の個展で「決断」をテーマにした大きな理由です。


武将を、英雄ではなく一人の人間として見る

私は歴史研究者ではなく、歴史が好きなデザイナーです。

歴史を追いながら作品をつくっていると、「誰が勝ったか」「何を成し遂げたか」以上に、「なぜ、その道を選んだのか」が気になるようになりました。

戦国武将というと、勇敢さや強さ、華々しい功績が語られがちです。

しかし彼らも、初めから迷いのない英雄だったわけではありません。

守るものがあり、捨てなければならないものがあり、限られた情報と時間の中で選択を迫られた人間です。

その決断が成功につながることもあれば、敗北を招くこともあります。
本人の意図とは違う形で、後世から評価されることもあります。

だから今回の個展では、武将を称えるだけでなく、その迷い、選択、覚悟、矛盾まで含めて表現したいと考えました。


勝敗だけでは語れない三つの決断

真田幸村は、大坂夏の陣で徳川家康の本陣へ迫り、後世まで語り継がれる存在となりました。

結果だけを見れば、豊臣方は敗れ、幸村も命を落としています。
しかし、勝利の可能性が限られた状況で、彼は何を信じ、なぜ最後まで戦ったのか。

そこにあるのは、単純な成功や失敗では測れない決断です。

小早川秀秋は、関ヶ原の戦いにおける「裏切り者」として語られることの多い人物です。

しかし、東軍への加担は事前に決まっていたとする見方もあり、合戦当日の出来事だけで彼のすべてを断定することはできません。

今回の作品では、「裏切り」という言葉を使わず、

「その迷いに、覚悟はあるか。」

という問いを置きました。

迷うこと自体が悪いのではありません。
重要なのは、その迷いの先で何を選び、結果を引き受ける覚悟があるのかということです。

豊臣秀吉は、好機をつかみ、天下人まで駆け上がった人物です。

一方で、権力を手にした後の決断には、光だけでなく深い影もあります。

作品では、その人生の変化を、天下へ向かう情熱と、権力の闇に沈んでいく姿に分けて表現しました。

成功するための決断と、成功した後に何を選ぶのかは、別の問題です。秀吉の人生には、「権力の沼にはまらないように」という、現代にも通じる戒めを込めました。

三人の生き方は異なります。

しかし、どの人物にも共通しているのは、決断した時点では、その先に待つ結果のすべてを知ることができなかったということです。

それは、私たちも同じです。


答えではなく、問いを持ち帰ってほしい

今回の個展は、戦国武将を紹介するためだけの展示ではありません。

歴史の知識を確かめるための展示でも、英雄を称えるためだけの展示でもありません。

彼らは、なぜその決断をしたのか。

もし自分が同じ立場だったら、何を選ぶのか。

その問いを通じて、自分が何を大切にしているのかを考えてもらうことが、この個展の目的でした。

問いに、唯一の正解はありません。

同じ作品を見ても、人によって答えは異なります。その違いの中に、それぞれの価値観や、これまで歩んできた人生が表れるのだと思います。

私自身、失敗を振り返れば、別の選択肢はいくつも見つかります。

それでも過去の決断をなかったことにはできません。
できるのは、その結果を引き受け、次の選択へつなげることです。

個展「その決断を問う」は、武将たちへ問いかける展示であると同時に、これまで決断を重ねてきた私自身へ問い返す展示でもありました。

作品を見たその場だけでなく、数日後、何かを選ばなければならないときに、ふと問いを思い出してもらえたら。

それが、この個展で最も持ち帰ってほしかったものです。

今回展示した26人の武将と、それぞれに込めた問いは、一冊の画集に収録しています。

個展「その決断を問う」画集の詳細・ご購入はこちら

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