誰も見たことがない、新たな侍のイメージを創りたい。

 Yoshikuniはこの信念の下、誕生したブランドだ。幻想的で唯一無二なグラフィックを大胆に用い、これまでイメージが定型化していた侍というモチーフをカラフルに、現代的に表現している。「幾多の困難が待ち受けるこの時代に、明るい侍を身にまとい、自らを鼓舞する。一人でも多くの人に、そんな気持ちになって欲しい」。デザイナー井上祥邦は願う。


 侍というテーマは一見、ファッションとは縁遠い。その中で今の時代でも受け入れやすいデザインにするため、井上が導き出したのが「侍タイポグラフィ」という独自表現だ。侍にまつわる史実を英文で表現し、適切に体裁を整えることによって、文字だけで人物を造形している。今回、表したのは武将・真田幸村。強者に屈せず、最後まで戦い通した兵として知られる。

 高品質な生地も特徴だ。和歌山の老舗工場にある希少な「吊り編み機」で編まれた肉厚な生地を採用している。糸を過度に引っ張らずに編み、ふっくらした衣服に仕上がった。洗うほどに風合いが増していく。

 新たな挑戦や重要な面会、あるいは気持ちがふさぎ込んでいる時―。そんな瞬間に、この「現代人の勝負服」が、人々を勇気づけるものであって欲しい。

 「侍タイポグラフィ」は、井上が生んだ表現技法だ。


 タイポグラフィは、文字の配列や書体の体裁を整える構成・表現を意味する。本の表紙や中身の文字配列や書体をデザインする装丁家として活動する井上は、海外の作品からヒントを得て、2016年に初めて侍タイポグラフィを創りだした。その後も精力的に制作を続け、甲冑を身にまとった侍を浮き上がらせた作品群は、類を見ない斬新さをたたえる。

 織田信長や豊臣秀吉、武田信玄といった戦乱の将をよみがえらせてきた井上が、Yoshikuniのために新たに生み出したのが真田幸村のグラフィックだ。真田は、小学時代の井上が歴史に興味を抱くきっかけとなった戦国武将。強者の徳川側になびくことなく、信念を貫いて戦い抜いた姿をたたえ「日本一の兵」と語り継がれている。

「長いものにまかれない」「小さい力でも、智恵と機転で強者に立ち向かう」。こうしたひたむきさ、美しさ、強さを現代に伝えるために最初に選ぶ人物として、真っ先に浮かんだのが真田だった。今後は武田信玄や上杉謙信のプロダクトもリリースし、「ポップで明るい、現代人が受け入れやすい歴史」をさらに提案していく。

「魂に息吹が吹き込まれるような、色彩豊かでまばゆいグラフィックを生み出していきたい」。それがブランドの夢だ。

 Yoshikuniの生地は、1920年に創業した和歌山のニット製造工場で編まれている。
 高速製造機による大量生産が主流の現代でも、この工場では熟練の職人さんたちが、梁からつるした希少な「吊り編み機」を動かし、ゆっくりと品質の高い生地を編んでいく。知る人ぞ知る有名工場だ。

 吊り編み機は1900年ごろにスイスなどから輸入されたが、現在、国内で実際に稼働する台数はごくわずか。のんびりと回転し、糸に余分な力を掛けずに編まれた服は、ふんわりと空気を含む。着心地が良く、洗う度に柔らかさが感じられ、独特の風合いを持っていく。

 今回表現した真田幸村は、和歌山県内で長年過ごし、兵術などを学んだとされる。そうしたゆかりの地の生地と出会い、渾身の衣服ができあがった。

About Designer

デザイナー井上祥邦(イノウエヨシクニ)

 2009年、yockdesignとして独立。東京に事務所をかまえる。

 独立以来、装丁家として歴史ジャンルのブックデザインや、クリエイターとして歴史関連のイベント動画制作、ポスターのグラフィックデザインなどに携っている。商業用の単行本、雑誌、広報誌、その他の媒体を合わせると年間30〜40のプロジェクト案件を手掛けている。

 2016年の侍タイポグラフィの制作をきっかけに、歴史に関連するプロダクトのデザインを本格化する。作品群が徐々に評価を得て、共同でのグッズ制作依頼や、イベントでのアイテム販売の依頼がくるようになった。

 2021年からオリジナルブランド「Yoshikuni」を立ち上げ、侍タイポグラフィを世界に向けて発信することを開始。
 歴史に詳しくなくても、このグラフィックがきっかけで侍や歴史に興味を持つ方が一人でも増えることを願っている。歴史に詳しい人は、英語のメッセージに込められた思いを発見する楽しさを感じて欲しい。

 今後も個性的な侍を制作をしていき、日本の伝統産業や海外のプロジェクトと共同制作をし、新しいプロダクトと価値を生み出したい。