横振り刺繍職人・石坂こず恵さんとデザイナー・井上祥邦さんインタビュー後編

 前回に引き続き、石坂さんの刺繍の哲学と井上さんのデザインへのアプローチが、どのようにしてこのユニークなプロジェクトを形作ったのかを探ります。

 

前編はこちら

 刺繍を施す際、最も集中する瞬間は?

石坂: 気を抜くと指を縫ったり間違えたりするので、常に集中しています。痛いのも、糸をほぐして縫い直すのも好きではないので。

井上: 石坂さんの集中力とプロフェッショナリズムは、私たちのコラボレーションの成功の鍵です。石坂さんの献身的な姿勢には感銘を受けます。

 

 Yoshikuniコラボスカジャンに石坂さんの技術がどのような独自性をもたらしていますか?

石坂: 正直、個性的なところは発揮していません。井上さんの作品が素晴らしいので、その理想に近づけるよう努めました。

井上: 石坂さんが私のビジョンを尊重し、それを実現するために努力してくれることに深く感謝しています。石坂さんのグラフィックを立たせる演出がこのグラフィックをひとつ上のステージに導いてくれたと思います。

 

 このコラボレーションにおいて、石坂さんが守り続けてきた刺繍の伝統はありますか?

石坂: 伝統という程ではありませんが、私の使っているミシンは70年前の物です。ネジもバネも部品の替えがないので、感謝や敬意を込めて油をさし、これからも大切にしたいです。

井上: 石坂さんが古いミシンを大切に使い続けていることは、私たちのコラボレーションにとっても意味深いです。そのミシンは単なる道具ではなく、石坂さんの技術と伝統を象徴しています。私のデザインが、そうした歴史あるミシンで生み出される刺繍と融合することで、作品にはさらに深いストーリーと魂が宿ることでしょう。石坂さんの技術と伝統への敬意は、私たちの作品にとって非常に重要な要素です。

 次世代の職人たちに伝えたい、石坂さんの刺繍に関する哲学は何ですか?

石坂: 刺繍は縫っていれば絶対に完成します! 完成も嬉しいですが、私は途中経過が最高に楽しいので完成させたくなくなる時もあります。

井上: 石坂さんのその哲学は、クリエイティブなプロセスの本質を捉えていますね。作品を作る過程そのものに喜びを見出し、完成品以上に価値を見いだすというのは、私たちデザイナーにとっても非常に重要な考え方です。石坂さんのような職人が次世代にこのような考えを伝えることは、彼らの創造性を育て、芸術の未来を豊かにすると思いました。。

 

 石坂さんと井上さんの対話からは、互いの技術と創造性への深い敬意が感じられました。

 石坂さんの伝統的な刺繍技術と井上さんの革新的なデザインが融合し、Yoshikuniコラボスカジャンには独特の魅力が宿ることが明らかになりました。

 このコラボレーションは、過去と現在、伝統と革新が共存する芸術作品の見事な例と言えるでしょう。

 

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