「侍タイポグラフィ」に秘められたデザイナー・井上祥邦の想いとは? 過去に配布したパンフレットで掲載されているインタビュー記事をWeb
サイトにも掲載します。
〈インタビュアー:株式会社解体新書・杉山直隆氏〉
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―――◆〈第1回〉◆―――
武将の人間ドラマに 小学生でハマる
── 唯一無二の魅力をたたえる侍タイポグラフィ。 なぜこの作品づくりを始めたのですか?
子供の頃から夢中になり、挫折から自分を救った「侍」の生き様を、多くの人に伝えたい。そう考えたからです。
──「侍」との出会いは?
小学生の頃に、図書館で戦国武将のマンガを見つけたことが始まりです。何気なく読んでみたら、一人ひとりに濃密な人間ドラマがある。信長、秀吉、家康、謙信…。知れば知るほど、同時代に生まれた武将たちのストーリーがつながっていくのが面白くて、のめり込んでいきました。私自身、学校の成績はあまり良くなかったのですが、社会や歴史はクラスでトップでした。歴史のことだけは忘れないんですよね。
──とくにお気に入りの侍は?
真田幸村です。最後の大坂夏の陣で家康をあと一歩まで追い詰めたことで「日本一の兵」と崇められるようになりましたが、私が幸村に憧れるのはそのエピソードだけではありません。信州の小さな大名の次男でありながら、小勢でも知恵と気力を持って大きな力と渡り合い、義を重んじて強い者にも決して丸め込まれない。その心意気がすごく粋に感じたのです。少年祥邦にとっては本当にヒーローでしたね。
侍の「失敗」を支えに 再び立ち上がる
──侍に救われた、というのは何があったのですか?
実は20代後半の時にデザイナーを辞めかけたことがあります。デザイナーとしてステップアップしていくキャリアプランを立て、編集プロダクションで書籍やムックなどのデザインをしていたのですが、働きすぎて体を壊してしまったのです。自分が力のない人間に思えてしまい「もう辞めよう」と思い致しました。
そんな私を引き止めたのが、侍の「失敗」のストーリーでした。
──どういうことですか?
華々しい活躍をした武将でも生涯をたどると、皆、何らかの失敗をしています。しかしそこで諦めなかったからこそ、のちに挽回することができた。そのことをふと思い出したのです。
「侍たちと同じように、私も何回追い詰められてもまだやり直せる」「まだできることはあるはずだ」──。侍の生き様が支えとなり、再び立ち上がる気力が湧いてきたのです。
会社を辞めて空いた時間を活かし、デザインの専門学校に入学。そこでデザインの師匠と出会い、自信を取り戻しました。その後、出版社で修行を積み、31歳で独立して、デザイナーとしてのステップアップを果たせたのです。
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